日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第43回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 43_3-C-S29-3
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シンポジウム
新興感染症との対峙 -産業界の立場から-
*手代木 功
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抄録

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年末の世界最初の患者報告以降、瞬く間に世界中に広がり、パンデミックを引き起こしました。パンデミック等の緊急事態下では、製薬企業はもちろんのこと、アカデミアや各国政府など、多くのステークホルダーが連携して、安全で有効な医薬品やワクチンを迅速に世の中に届けることが極めて重要です。

今回のパンデミックへの対応を振り返ってみると、これまでに経験のないスピードで医薬品やワクチンの開発が進みました。その背景には、米国のOWS(オペレーション・ワープ・スピード)やEUA(緊急使用許可)に代表されるような有事に対応した制度や仕組みの存在が挙げられます。

日本においても、今回のパンデミックをきっかけに、日本政府が2021年6月に「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定し、日本の当局が主体となって薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)での議論を進め、ワクチン開発における新たな評価方法が検討されました。現在、複数の国内企業が、この新たな方法を用いて国産ワクチンの開発・提供に向けた取り組みを進めています。また、次の有事を見据えた日本のワクチン開発の司令塔として「先進的研究開発戦略センター(SCARDA)」が設立(2022年3月)され、有事に必要な医薬品等を迅速に薬事承認するための仕組みとして「緊急承認制度」が創設・施行(2022年5月)されました。今後は、これらの新しい枠組みや制度を産官学が一体となって運用していくことが期待されます。

一方、ワクチン開発には多くの製薬企業が取り組む中で、感染症対策に必須となるもう1つのピースである経口抗ウイルス薬の開発に関しては、グローバルで見ても数社しか取り組めませんでした。世界が危機的な状況にある中で、なぜ、多くの製薬企業は経口抗ウイルス薬の開発に取り組むことが出来なかったのか。本講演では、産業界の立場から見て、感染症とはどういった位置づけにあるのか、また、次のパンデミックへの備えとして、どういった取り組みが必要とされているのかをお伝えさせていただきます。

感染症は、いつ・どこで・何が発生するのか予測困難です。それゆえに、平時から継続して準備を進めておくことが、極めて重要になります。本講演が、産官学の枠を超えて、今後の感染症対策の取り組みについて考えるきっかけとなれば、望外の喜びです。

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© 2022 日本臨床薬理学会
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