主催: 日本臨床薬理学会
【目的】ランダム化比較試験では、効率を上げるために共変量を調整した解析が一般的に適用される。しかし、ハザード比やオッズ比のような効果指標では、調整しない解析(周辺効果)よりも調整する解析(条件付き効果)の方が指標は大きくなること(noncollapsibility)が知られており、効率以外の影響を考える必要がある。非劣性試験で被験薬群の方が実対照薬群より効果が劣る場合、noncollapsibilityにより条件付き効果の推定値の方が非劣性マージンにより近い値になると考えられる。本研究ではハザード比を効果指標とした非劣性試験において、共変量調整が効果の推定値へ与える影響がどの程度あるかをシミュレーションにより評価した。【方法】シミュレーション実験では、各患者の生存時間がワイブル分布に従うと仮定してデータを発生させた。その際、正規分布に従う共変量を1つ含む比例ハザードモデルを用いて発生させた。また、被験薬群と実対照薬群への1:1割り付けを想定した。共変量調整の影響を検討するために、シミュレーションのシナリオ毎に非劣性マージン、治療効果、打ち切り割合、共変量効果、症例数を変化させた。これらのデータに対して共変量未調整解析(周辺効果)、IPTW(周辺効果)、多変量Cox回帰(条件付き効果)の3つの解析を行い、非劣性が示される割合、推定値の平均、経験的標準誤差の検討を行った。シミュレーション回数は100000回とした。【結果・考察】被験薬の治療効果が劣る方にハザード比が大きいシナリオでは、周辺効果と条件付き効果の乖離は大きく、多変量Cox回帰の標準誤差がより大きくなり、未調整とIPTWの方が非劣性を示しやすかった。打ち切り割合が多いシナリオでは、周辺効果と条件付き効果の乖離が小さくなり、3つの解析の非劣性を示す割合の差は小さくなった。共変量効果が大きいシナリオでは、周辺効果と条件付き効果の乖離は大きく、IPTWの標準誤差が小さくなり、未調整とIPTWの方が非劣性を示しやすかった。症例数が多いシナリオでは、未調整とIPTWの方が多変量Cox回帰より非劣性を示しやすいものの、その差はハザード比によって異なっていた。【結論】非劣性試験において、一般的に行われている多変量Cox回帰を行うとnoncollapsibilityにより非劣性を示しにくくなるが、その傾向はハザード比が大きいとき、打ち切り割合が少ないとき、共変量効果が大きいときにより顕著であった。