主催: 日本臨床薬理学会
薬局薬剤師が薬局や患者居宅等にて簡便かつ低侵襲な自己採取法により得た微量検体を用いて、薬効の指標値を測定・解析することにより、患者の薬物治療を評価・適正に管理することができる。この治療薬物モニタリング(TDM)により、従来の患者を観察し聴取した情報に加えて、客観的なデータを得ることができるため、服薬アドヒアランスの確認、薬物濃度が有効濃度域内であることの確認、患者への服薬説明、処方監査や、医師へのフィードバックにつながる。ただし、薬局や患者居宅にて指先自己穿刺で採取された血液の遠心分離後、血漿検体を分取し、凍結後に輸送する方法(血漿法)をとっていた。この方法では、器具が揃いにくい環境やそれらを扱える者がいない環境への対応に改善の余地があった。そこで、TDM実施時に全血を直接ろ紙カードに滴下するdried blood spot(DBS)法の導入を検討した。DBS法は常温下、普通郵便での送付が可能という利点もある。
抗てんかん薬の場合、バルプロ酸(VPA)服用患者に対するDBS法の臨床応用性を検討した。使用全血は指先自己穿刺自己採取により得た。全血15 μLをWhatman FTA DMPK-Aカードに滴下し、室温乾燥後、ろ紙を直径3 mmパンチでくり抜き、メタノールで抽出した。抽出溶媒を遠心エバボレーターで除去後、誘導体化した。最終試料1 μLをgas chromatograph-mass spectrometer(GC-MS)に注入し濃度測定した。VPA服用中の患者に説明し同意を得たのち、薬局または患者居宅にてDBS全血検体と血漿検体の両方を採取し、全血中と血漿中の濃度を比較した。DBS法による全血中VPA濃度と別途測定した血漿中VPA濃度との間には相関がみられ、全血中濃度の方が低い傾向にあった。また、カルバマゼピン(CBZ)においても同様に、患者で実践したことで、薬局・患者居宅におけるDBS法の臨床適用可能性が示され、全血中CBZ濃度と血漿中CBZ濃度との間には相関が認められた。
今後も検討・検証を重ねていくことで、全血中薬物濃度に基づいた薬物治療の評価・適正管理が可能になると考えられる。従来の血漿法に加えて、器具や医療スタッフが揃わない環境下においてDBS法を導入し、両者をうまく活用することで、より有用なTDMを実践できると期待される。