主催: 日本臨床薬理学会
【背景・目的】自然発症する多くの疾病と異なり、放射線障害は医療事故、作業事故や戦災を要因とし、その発生確率は低いものの一定期間毎に発生している。また、放射線障害は放射線被ばくした組織と線量に応じて出現症状や出現時期が異なることが知られている。内部被ばくに対しては、放射性核種の体外排出を促進する治療が優先され、核種に合わせた複数の治療剤が準備されている。一方で組織損傷を軽減、回復、治癒などを促進するような治療研究や薬剤開発は十分な成果に到達していない。今般、海外で研究開発中のNM-IL-12製剤を用いた放射線局所皮膚障害に対する臨床研究の企画を行うこととなった。本企画は医療の備え(preparedness)という側面も強く、その情報共有は社会的な意義が高いと考え、本臨床研究準備の際に検討した事項についてまとめた。【方法】検討事項を次のように整頓した。1.試験製剤に関する既知情報、2.想定効能に関する根拠情報、3.試験製剤の用法用量、4.想定される試験参加者想定と試験実施体制と実施場所【結果】試験企画時点で、検討した製剤は国内外未承認の医薬品であり、国内での臨床試験や治験の実施実績および実施検討中の臨床試験はなかった。ただし、臨床薬理試験は海外で完了していた。放射線局所皮膚障害に対する有効性を示す非臨床研究はあったが、具体的な作用機序の探索を含めて信頼性の堅牢性は高くなかった。東京電力福島第一原子力発電所廃炉作業中のβ線核種による汚染事故を念頭におき、想定した試験製剤の使用条件を勘案し、実施場所を福島県立医科大学附属病院とした。試験薬は事前に施設待機させておくこととした。また、類似事故にも備えて高度被ばく医療支援センター(全国6か所)の連携が可能となるように情報共有体制を同時に確認した。【考察】日本国外では、被ばく医療は核戦争や原発事故による大規模な傷病者発生も想定し、産官学に軍を加えた体制で、医薬品開発や医療開発が行われている。本企画は海外企業からの問い合わせにより立上げが始まった。本邦でも同様にpreparednessを意識した、開発促進策を持てることを期待したい。