主催: 日本臨床薬理学会
メトホルミンは60年以上前から臨床使用され、今もなお世界で最も多くの人々に服用されている経口血糖降下薬です。その効果は血糖を降下させるだけでなく、抗動脈効果、抗腫瘍効果、抗加齢効果など多岐にわたる報告が存在します。近年、メトホルミンの作用機序として、消化管や腸内細菌に対する影響が注目を浴びています。
F[18F]fluorodeoxyglucose (FDG)-PET検査において、メトホルミン服用者で腸管にFDGが集積する現象は既に10数年前から知られていました。しかし、従来のPET/CT技術では、腸管壁と腸管内腔を明確に区別することが困難で、FDGの集積がどちらに起因するのかの解明は難しかった。このため、FDGの集積が腸管壁(腸管細胞)に由来するとの認識が一般的でした。
私たちは、PET/MRIがPET/CTよりも高い空間・物質分解能を持つことを活用し、FDG-PETの際のFDGの集積位置を詳細に解析しました。そして、メトホルミンを服用すると、経静脈投与されたFDGが腸管内腔に特異的に集積することを確認しました(Diabetes Care 2020, 40:1796; Diabetes Obes Metab 2021, 3:692)。これは、メトホルミンが血中のグルコースを腸管内腔へ移行・排泄させる効果を示しています。
更に、私たちは新たな撮像技術、FDG-PET/MR enterographyを開発し、この技術を利用することで、メトホルミン服用時の腸管内腔におけるFDGの集積が約4倍に増加することを明らかにしました。また、放射活性の時間変化を数理モデルで解析し、メトホルミンを服用していない状態でのグルコース排泄が約0.41g/hr、服用時は約1.65g/hrと、非常に大量であることを明らかにしました。
これらの結果は、メトホルミンの未知の薬理作用を明らかにするだけでなく、消化管が栄養素の吸収のみならず、グルコースの排泄機能も持つことを示しています。現在、この新たな発見に基づく作用の意義やメカニズムの調査を続けています。