日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_2-C-S34-6
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シンポジウム
薬理遺伝学パネル検査の現状と課題
*筵田 泰誠
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抄録

薬理遺伝学検査は、薬物応答に関する生殖細胞系列の遺伝情報を扱う検査 (遺伝学的検査) と定義され、特定の患者における薬効、副作用リスクや薬物動態などの薬物応答性を予測することにより、患者に恩恵をもたらしている。国内では抗がん薬イリノテカンによる重篤な副作用の発現リスクを予測するUGT1A1検査、炎症性腸疾患、リウマチ、白血病、自己免疫性肝炎等の治療におけるチオプリン製剤 (6-メルカプトプリン、アザチオプリン) の投与可否を判断したり、至適投与量を予測したりするためのNUDT15検査、多発性硬化症治療薬シポニモドの投与可否・維持用量を判断するためのCYP2C9検査の3種類 (4薬剤) が保険収載されている。

日本臨床薬理学会からの 「診療における薬理遺伝学検査の運用に関する提言」 (2022年) では、上述の3検査に加えて、CYP2D6CYP2C19NAT2HLA遺伝子など、保険適用には至っていないものの、診療における有用性のエビデンスの強さが一定以上であることが医薬品添付文書や診療ガイドラインなどの情報より判断される15種類の薬理遺伝学検査がリスト化されている。これらの検査には、ブレクスピプラゾールにおけるCYP2D6検査やエスシタロプラムにおけるCYP2C19検査のように、医薬品添付文書では遺伝子検査の結果に基づいた投与量の決定・調整が推奨されているものも見られる。

現在、国内で研究用試薬として利用可能な薬理遺伝学検査パネルは、マイクロアレイ、次世代シークエンサー (NGS)、質量分析計 (MALDI-TOF/MS) を用いたものに大別されるが、いずれにおいてもCYP2D6HLAのように複雑なゲノム構造の領域に存在する遺伝子を正確に調べることが困難である。そこで、当研究チームでは、マルチプレックスPCRとショートリード型NGSを組み合わせた薬理遺伝学検査パネルcorePGseqを開発した。corePGseqにより、上述の 「提言」 のリストの遺伝子を含む、薬物治療に重要な18遺伝子の翻訳領域のシークエンシングが可能である。日本人105人のHLA-AHLA-BHLA-DRB1HLA-DQA1およびコピー数変異を含むCYP2D6の遺伝子型は、既存の検査法の結果と完全に一致したことより、本パネルを用いた検査の正確性が示された。これらの薬理遺伝学検査パネルの臨床実装を推進するためには、検査結果に基づいて患者にメリットをもたらす治療介入法の提案、結果返却に関するプロセスを含むゲノム医療の提供体制の構築が必要であると考えられる。

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© 2023 日本臨床薬理学会
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