主催: 日本臨床薬理学会
肝移植後の患者においては拒絶反応を抑制するためにタクロリムス(Tac)またはシクロスポリンといったカルシニューリン阻害薬(CNI)にステロイドや代謝拮抗薬などの免疫抑制薬を組み合わせて管理するが、CNIは薬物相互作用が多く認められる点で、担当医・担当薬剤師は細心の注意を払い、用量調整や併用薬の取捨選択を行っている。今回は当施設で経験された薬物相互作用によりTac血中濃度が変化し、さらにそこから推測された併用薬の過剰曝露による有害事象を来した症例、並びに薬物相互作用を利用してTac血中濃度の安定化を図った症例を提示し、安全な薬物治療管理について議論したい。
(症例1)COVID-19が本邦で問題となってから早3年半が経過し、最近は重症例が稀少となったが軽症・中等症感染者数は非常に多く、必要時にはモルヌピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビルフマル酸塩(ゾコーバ)の経口投与による外来治療も可能となった。症例は肝移植後の70歳女性でタクロリムス(Tac)使用中。COVID-19感染のため抗ウイルス薬の内服を開始したところ、翌日に意識障害および急性腎障害を来した。経口摂取困難となったため抗ウイルス薬は静注薬(レムデシビル)に変更、Tacも中止した。後にTac濃度は著明に上昇(ベース2-5ng/mL→65.9ng/mL)していたことが判明した。COVID-19としてはその後重症化することなく軽快し、意識障害も速やかに改善した。意識障害の原因として他の併用薬の血中濃度上昇があったこともTacの動態推移から推定された。
(症例2)肝移植後31歳女性。移植直後は静注でのTac投与にてTac濃度は安定していたが、内服へ移行すると濃度が顕著に低下した。服用タイミングの調整(服用前後の飲食制限)を行っても吸収不良が改善しなかったため、併用薬の変更を行うことにより、Tacの吸収量増加を介して血中Tac濃度の安定が得られた。
このような治療・診断に苦慮する症例において医師・薬剤師・臨床薬理専門家の密な連携が有効と考えられた。