日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_3-C-O19-3
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一般演題(口演)
成体マウス心臓において、YAPの活性化は、心筋炎による組織傷害からの修復に必須である
*梅田 綾香亀谷 祐介鈴木 翔大西中 康介江川 果穂田中 翔大岡田 欣晃尾花 理徳藤尾 慈
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抄録

【目的】心不全は、あらゆる循環器疾患の終末像である。心不全が発症する根本的な原因は、心臓の組織修復能が低いことにあるが、急性心筋炎では、一過性に心機能は低下するものの炎症終息後、多くの症例で心機能が回復することが臨床的に広く知られている。従って、心筋炎後にみられる心機能回復過程の分子基盤を解明することで、心臓の内因性の再生能力の活性化を機序とする心臓再生治療の開発に繋がると考えた。本研究は、マウス実験的自己免疫的心筋炎モデル(EAM)を用いて、EAMで機能低下した心機能が回復するメカニズムを、心筋細胞増殖に関与する転写調節因子YAPに着目して明らかにすることを目的とする。

【方法・結果】EAMモデルは、雄性Balb/cマウスをミオシン重鎖ペプチドで2回免疫することで誘導した。EAMモデルでは、心筋炎誘導(1回目免疫)後3週目に炎症がピークを迎え、心筋組織が障害され心機能が低下するが、炎症が終息した5週目においては組織的な回復が認められる。まず、心筋炎誘導後3週目において、心筋細胞の増殖に関与する転写調節因子YAPの活性化を免疫染色で検討し、YAPが核に局在することから、YAPの活性化が確認された。

そこで、成体での心筋細胞におけるYAPの機能を追求すべく、心筋細胞特異的にYAPを欠失させたマウス(YAP CKOマウス)を作製し、EAMを誘導後、0週、3週、5週のタイムポイントで心エコー解析を行った。その結果、EAM3週で一度低下した心機能は、EAM5週においてコントロール群では回復しているのに対し、YAP CKOマウスではその回復が認められなかった。次に、YAPは血管新生に関わるという可能性を考え、EAM5週においてCD31抗体を用いた免疫組織化学染色を行った。その結果、YAP CKOマウスでは、コントロール群と比して血管密度が有意に低下していた。

以上の表現型の差異がどのような機序で生じたかを調べるために、EAM5週のマウスにおいて心筋細胞を単離し、RNA-seq解析を行った。GO解析の結果から、YAP CKOマウスではインターフェロン(IFN)γ関連遺伝子の発現が有意に増加し、その下流にあるとされるケモカイン、脂肪酸代謝に関わる遺伝子群の発現が変化した。

【結論】EAMモデルにおいて、YAPは、IFNγのシグナルを制御して、心機能の回復を促している可能性が示唆された。IFNγは、心筋再生/血管新生を抑制することが知られており、新たな心不全治療標的になる可能性が示唆された。

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