抄録
本研究の目的は,院内感染が社会問題化した経緯を明らかにすることである.分析資料には院内感染をキーワードとして検索した新聞記事を用いた.院内感染の社会問題化は,医療者が1980年代に学会等を通じてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に代表される耐性菌による院内感染の問題を指摘したことで始まり,1990年代に入ってから訴訟報道を含む多くの記事が新聞に掲載されるようになり,これらに対して厚生省から院内感染対策の通知が立て続けに出されるという経過をたどっていた.院内感染の社会問題化の特徴は,「耐性菌による院内感染」というように院内感染のサブカテゴリーが社会問題とされたことと,新聞より先に医療者が社会問題であると表明したことであり,その背景には耐性菌の問題が個々の医療機関や医療者の責任の範囲内では解決できない問題であるとの医療者側の認識があると考えられる.