医療の質・安全学会誌
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学術集会報告
第11回 医療の質・安全学会 学術集会 特別講演2 医療過誤事件の捜査・処理 −刑事処罰の行方−
藤宗 和香
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2017 年 12 巻 2 号 p. 184-

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抄録
 医療関係者の間では,医療過誤事件に関し,警察・検察の捜査に対する反発が強い。刑事処罰は医療の委縮を招くのみで過誤の発生を防止する効果はない,大事なのは過誤を発生させないためのシステム作りである,との考え方がその背景にあると思われる。  しかし,当該医療過誤が,システムの不備に負うところ大で生じたのか,行為者の個人的要因がどう関係しているのか,過失行為は重複しているのか,などは,過誤の生じた状況が充分に解明されて初めて分る。将来の医療安全に向けてのシステム整備は,その上で論じるべき課題であろう。一方,生じてしまった患者の死傷に対する責任は,それとは別個に行為者の故意・過失の有無,態様・程度に応じて問われるべきである。  そして,我が国では,警察,検察は,医療過誤事件に関しても,事案の軽重,過失行為の内容,程度に応じて,謙抑的に処分をし,裁判所もまた,それぞれが職分を尽していると思われる。医療過誤事件として届出等された事案のうち,警察が捜査の結果,立件して検察庁に送致する割合は半分に満たず,そのうち検察官が有罪の確信を持ち,かつ処罰の必要を認めて起訴する割合は2割に満たず,さらに,その起訴の8割は略式請求起訴されて罰金刑で確定している状況であり,決して医療の委縮を招くような不合理なものとは思われない。 これまでの医療過誤事件の捜査,起訴・不起訴の処分,裁判結果は,概ね,過誤の実態に沿った相応のものと思われる状況を具体的に紹介する。
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