目的:全身麻酔医療事故の再発防止とさらなる医療安全を目的として,現行法下における全身麻酔関連医療事故判例を収集し,P-m SHELLモデルを使用して事故の原因究明とその対策を検討した.
対象と方法:判例の収集にはオンラインデータベースと電子図書データを利用した.データは全身麻酔,麻酔薬,麻酔科医(麻酔医)をキーワードとして検索し,全身麻酔症例の医療事故に関する判例を収集後,内容ごとに分類し,事故要因についてP-m SHELLモデル(P:Patient,m:management,S:Software,E:Environment,L1:Liveware,L2:other Liveware)を使用して解析した.さらに事故の原因とその対策に関して文献的考察を加えた.
結果:医療事故における分析モデルであるP-m SHELLモデルを利用して解析した結果,L要因によるものが圧倒的に多かった.続いてP要因(患者),m要因(管理体制),H要因(ハードウェア)によるものであった.P要因による判例では全例医師の過失は認められなかった.一方,明らかに医師の過誤(L要因)と判断された判例は全て医師の過失が認められた.
考察と結語:麻酔科医は,患者のリスクを把握しヒューマンエラーを回避することが重要である.また,L,P要因による事故を回避するには,m,H,S,E要因の改善も必要不可欠である.P-m SHELLモデルの要因ごとに対策を講じることで,全身麻酔における医療安全に寄与することが示唆された.P-m SHELLモデルは事故の背景にある種々の要因を抽出することで,事故再発防止につながるため有用であると考えられる.
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