医療の質・安全学会誌
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12 巻, 2 号
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総説
  • 反田 篤志
    2017 年12 巻2 号 p. 135-
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    プロセス指標は医療の質を測定,向上する上で重要なツールである.一方,効果的なプロセス指標を選ぶのは難しく,有効でない指標を測定しても医療の質向上につながらないばかりか,機会費用の損失や副次効果により患者に損失をもたらしうる.米国のThe Joint Commission(JC)が設定したコア・メジャーにおけるプロセス指標の一部は,入念な準備にも関わらず,患者アウトカムとの相関が見られなかった.それらの結果を元にJCは,エビデンス,近接性,正確性,および負の副次効果の4つを,プロセス指標の有効性を評価する軸に選び,アカウンタビリティ・メジャーの基準とした.プロセス指標を選ぶ際には,これらの軸を中心に有効性を評価するとともに,サンプルサイズ,測定手法の妥当性及び信頼性,コスト,実行・継続可能性,代替プロセスといった項目を十全に吟味する必要がある.さらに,指標の選定・設定後も,その有効性を継続的に評価することが望ましい.
原著
  • 久田 友治, 具志堅 興治, 岡山 晴香, 加治木 選江
    2017 年12 巻2 号 p. 143-
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    緒言:医療機器についての教育は,医療機器による医療事故等の削減策の一つになると考えられる.医療機器のシミュレーション教育について,医師や看護師を対象とした報告は多いが,医学生を対象とした報告は少ない.医学教育モデル・コア・カリキュラムでは経鼻胃管について記載されているが,医学生が経鼻胃管について経験する事は少ない.また,同カリキュラムでは「主な医用機器の種類と原理を概説できる」とされており,輸液ポンプとシリンジポンプの使用頻度は高く,医療事故も多いが,医学生を対象にした輸液・シリンジポンプの教育についての報告はない.以上から,医学生を対象にして経鼻胃管と輸液・シリンジポンプのシミュレーション教育の意義について検討する事を本研究の目的とした. 方法:対象は医学生82名である.医学生に経鼻胃管のシミュレータへの挿入と輸液・シリンジポンプの操作をさせ,3つの事項,即ち経鼻胃管留置の確認法,フリーフロー,サイフォニング現象を教えた.今回の教育を評価する為に,実習前,事前学習後,実習後のテストを行なった. 結果:経鼻胃管留置の確認法,フリーフロー,サイフォニング現象ついての正解者は,実習前,事前学習後,実習後で有意に増加した. 結語:医学生を対象にしたシミュレーション教育により,経鼻胃管と輸液・シリンジポンプの適正使用の為に必要な3つの事項の理解について意義のある事が示唆された.
  • 土屋 守克, 眞邉 一近, 間藤 卓
    2017 年12 巻2 号 p. 149-
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    研究の目的:看護師に対する生体情報モニタのアラーム回数減少のための行動的介入の効果の検討を目的とした. 研究計画:実験1はABデザイン,実験2はABAデザインとした. 場面:大学病院外科系病棟とした. 参加者:大学病院外科系病棟に勤務する看護師(実験1:39 名,実験2:45名)とした. 介入:実験1では,看護師に対するアラーム回数を減らすための指示が自動的に表示される機能の生体情報モニタへの導入と,アラーム回数を減らすための手順書の提示とした.実験2では,特定の条件を満たした場合に優先順位が一段階上昇するアラーム機能の生体情報モニタへの導入とした. 行動の指標:1床あたりのアラーム回数とした. 結果:実験1では,心電図と動脈血酸素飽和度の特定のアラームの回数は減少したが,効果は十分でなかっ た.実験2では,心電図と動脈血酸素飽和度の特定のアラーム回数が減少し,介入の効果の可能性が示された. 結論:生体情報モニタのアラーム回数減少に関わる行動は,手順書や視覚刺激の提示を主とした介入では制御は難しく,アラームの嫌悪性の増大,個人の行動に対するフィードバック,アラームの視覚刺激と聴覚刺激への介入の併用,などの必要性が示唆された.
  • 吉田 和矢, 今泉 うの, 板倉 紹子, 山田 良広
    2017 年12 巻2 号 p. 159-
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    目的:全身麻酔医療事故の再発防止とさらなる医療安全を目的として,現行法下における全身麻酔関連医療事故判例を収集し,P-m SHELLモデルを使用して事故の原因究明とその対策を検討した. 対象と方法:判例の収集にはオンラインデータベースと電子図書データを利用した.データは全身麻酔,麻酔薬,麻酔科医(麻酔医)をキーワードとして検索し,全身麻酔症例の医療事故に関する判例を収集後,内容ごとに分類し,事故要因についてP-m SHELLモデル(P:Patient,m:management,S:Software,E:Environment,L1:Liveware,L2:other Liveware)を使用して解析した.さらに事故の原因とその対策に関して文献的考察を加えた.  結果:医療事故における分析モデルであるP-m SHELLモデルを利用して解析した結果,L要因によるものが圧倒的に多かった.続いてP要因(患者),m要因(管理体制),H要因(ハードウェア)によるものであった.P要因による判例では全例医師の過失は認められなかった.一方,明らかに医師の過誤(L要因)と判断された判例は全て医師の過失が認められた. 考察と結語:麻酔科医は,患者のリスクを把握しヒューマンエラーを回避することが重要である.また,L,P要因による事故を回避するには,m,H,S,E要因の改善も必要不可欠である.P-m SHELLモデルの要因ごとに対策を講じることで,全身麻酔における医療安全に寄与することが示唆された.P-m SHELLモデルは事故の背景にある種々の要因を抽出することで,事故再発防止につながるため有用であると考えられる.
報告
  • 佐藤 淑子
    2017 年12 巻2 号 p. 175-
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,院内感染が社会問題化した経緯を明らかにすることである.分析資料には院内感染をキーワードとして検索した新聞記事を用いた.院内感染の社会問題化は,医療者が1980年代に学会等を通じてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に代表される耐性菌による院内感染の問題を指摘したことで始まり,1990年代に入ってから訴訟報道を含む多くの記事が新聞に掲載されるようになり,これらに対して厚生省から院内感染対策の通知が立て続けに出されるという経過をたどっていた.院内感染の社会問題化の特徴は,「耐性菌による院内感染」というように院内感染のサブカテゴリーが社会問題とされたことと,新聞より先に医療者が社会問題であると表明したことであり,その背景には耐性菌の問題が個々の医療機関や医療者の責任の範囲内では解決できない問題であるとの医療者側の認識があると考えられる.
学術集会報告
  • 藤宗 和香
    2017 年12 巻2 号 p. 184-
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
     医療関係者の間では,医療過誤事件に関し,警察・検察の捜査に対する反発が強い。刑事処罰は医療の委縮を招くのみで過誤の発生を防止する効果はない,大事なのは過誤を発生させないためのシステム作りである,との考え方がその背景にあると思われる。  しかし,当該医療過誤が,システムの不備に負うところ大で生じたのか,行為者の個人的要因がどう関係しているのか,過失行為は重複しているのか,などは,過誤の生じた状況が充分に解明されて初めて分る。将来の医療安全に向けてのシステム整備は,その上で論じるべき課題であろう。一方,生じてしまった患者の死傷に対する責任は,それとは別個に行為者の故意・過失の有無,態様・程度に応じて問われるべきである。  そして,我が国では,警察,検察は,医療過誤事件に関しても,事案の軽重,過失行為の内容,程度に応じて,謙抑的に処分をし,裁判所もまた,それぞれが職分を尽していると思われる。医療過誤事件として届出等された事案のうち,警察が捜査の結果,立件して検察庁に送致する割合は半分に満たず,そのうち検察官が有罪の確信を持ち,かつ処罰の必要を認めて起訴する割合は2割に満たず,さらに,その起訴の8割は略式請求起訴されて罰金刑で確定している状況であり,決して医療の委縮を招くような不合理なものとは思われない。 これまでの医療過誤事件の捜査,起訴・不起訴の処分,裁判結果は,概ね,過誤の実態に沿った相応のものと思われる状況を具体的に紹介する。
  • 上田 裕一
    2017 年12 巻2 号 p. 206-
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    群馬大学医学部附属病院 医療事故調査委員会の構成の経緯,調査の観点と進め方,報告書の概要を紹介し,その要点であるクリニカル・ガバナンスについて述べる. 索引用語: 医療事故調査委員会,医療事故調査報告書,クリニカル・ガバナンス
  • 佐々木 菜名代, 小林 美雪, 中根 直子, 内田 宏美, 嶽肩 美和子
    2017 年12 巻2 号 p. 213-
    発行日: 2017年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    医療の質の向上と安全の確保は医療機関が最優先に取り組むべき課題のひとつとして位置づけられ,看護職においても医療安全教育が臨床だけでなく基礎教育においても徐々に浸透している.しかし,教育機関と臨床の連携や,医療安全教育に携わる人材の育成などにおいて課題も多い.そこで,臨地実習を受け入れる看護職員と教員の連携,複数の専門科目の教育内容の中に「安全」の概念を組み込んだカリキュラム,医療安全管理者の看護基礎教育・継続教育双方への介入といった先駆的な取り組みを通して,看護職の医療安全教育についての検討を行った. 医療安全教育を看護師の専門職教育の重要な要素と位置づけ,基礎教育,新人教育,熟練者に至るまで,継続的,かつ継ぎ目のない教育体制の構築に向けて取り組んでいく必要がある.そのためには,教員と臨床実習指導者,医療安全の専門職である医療安全管理者,さらには看護管理者が,安全教育の知識・技術を共有し,学生および新人看護師を育成する体制を構築するための緊密な連携・協働が必要不可欠である. なお,本稿は第11回医療の質・安全学会学術集会パネルディスカッション10で発表した内容を収録したものである.
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