抄録
群馬大学医学部附属病院の腹腔鏡下肝切除術後死亡事故を受けて作成された当初の腹腔鏡下肝切除術報告書は,その調査過程や過失の追記などについて社会から非難を浴びた.予測外の混乱の中であったとはいえ,この記載は,組織として不適切な判断であった.このような状況に至った背景は多々あるが,問題のひとつとして,外部委員も参加した調査委員会の報告書とそれに対する病院の判断を混同したことが挙げられる.この際の調査委員会は通常の院内医療事故調査とは異なる体制で行ったが,調査過程を振り返りつつ院内の体制を見直すと,改善すべき点が多々あった.混乱の契機には当初の遺族対応の遅れがあり,調査開始時の患者家族への説明やカルテ開示についても明文化した.事故調査の手法やプロセスの標準化は必須である.自施設における事故調査のあり方について院内関係者の共通認識を図るとともに,有事の確実な対応について見直す必要がある.