社会学評論
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感情労働で燃え尽きたのか?
感情労働とバーンアウトの連関を経験的に検証する
三橋 弘次
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2008 年 58 巻 4 号 p. 576-592

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抄録

日本ではA. Hochschild(1983)の成果を基にして,感情労働の遂行が燃え尽きに帰結するという主張が頻繁に見られる.しかし,多数の経験的検証が行われている欧米では,感情労働と燃え尽きとの連関のありようは主張されるほど明確ではないと批判されており,日本で見られる経験的検証なき因果連関の主張は危ういものと言わざるをえない.
そこで本研究は,感情労働と燃え尽きとの連関について,文献精査をし,その結果を踏まえ事例データの分析を通じて経験的に検証することを目的とした.
主な結果は,まず,感情労働することで燃え尽きる,という因果連関に強い疑義が呈された.Hochschild(1983)の丁寧な再読と燃え尽き事例の分析からは,感情労働したいのにできない状況が,燃え尽きの現象に共通した背景として見えてきたのである.また詳細を見ると,感情労働したいのにできずに燃え尽きに至る過程は多様であった.これは,職業特性の多様さ,感情労働の遂行の多様さ,感情労働過程の多様さを看過して,さまざまな職業を「感情労働職」として1つのカテゴリーにまとめて燃え尽きと関係づけて問題化しようとする粗雑な議論に反省を促すものである.さらに,感情労働の心理的効果もそうした諸要素に依存するのであって,燃え尽きは感情労働の本質的な問題ではないことが経験的に示唆された.

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© 2008 日本社会学会
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