社会学評論
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「上演」に根ざす地域伝統文化
岩手県早池峰岳神楽を例として
長澤 壮平
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2008 年 59 巻 3 号 p. 566-582

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抄録
現代における地域伝統文化は,研究者の介入を契機として対象化され,文化資源としてイデオロギーやイメージを担わされてきた.しかしその一方で,地元の当事者は外部の人々の構築的実践に巻き込まれつつも,その流れをみずからの利益にかなうよう戦略的に変換する.
こうした地域伝統文化の実践のありようについてはこれまでさまざまに議論されてきたにもかかわらず,地域において培われ,当事者の立脚点を形成するような実践の核心部はいまだ十分に捉えられていないように思われる.この問題を追究するため,本稿では岩手県花巻市に伝承される地域伝統芸能である「岳神楽」の実践について検討する.
岳神楽の実践の核心部は,地元の宗教儀礼を含めた上演の歴史によって培われた「いまの上演」と考えられる.「いまの上演」は内的統一として身体‐感情レベルに属し,文化財化や観光資源化といった外部の人々による構築から独立した地位を占めている.そして,演者たちは「いまの上演」に立脚することで,近代化における「文化財」「観光」といった意味づけを退けつつも逆に利用しているのである.
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© 2008 日本社会学会
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