社会学評論
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特集・周辺への/周辺からの社会学
医療は文化人類学における〈周辺〉か
波平 恵美子
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2010 年 61 巻 3 号 p. 338-350

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抄録
文化人類学は,その目的からしても基本とする理論からしても,研究テーマに〈中心〉であるとか〈周辺〉であるかの区別はしない.つまり,目的は人間を人間たらしめている文化について明らかにすることであり,その文化は,人間が後天的に獲得した能力や発達させた制度や慣習の総体であると考えているからである.また,具体的な資料の分析では文脈(コンテクスト)を明らかにすることを重視するので,できるだけ広く人間の行動を拾い上げるよう努るからである.したがって,医療が文化人類学の中で〈周辺化〉されることはない.しかし,医療は,それが伝統医療であれ現代医療(バイオメディスン)であれ,人間の身体に直接関わるものであるため,人間の生物学的要素を欠いた資料のみで医療を研究対象にすると,研究のうえで充分な成果をあげることはできない.その意味では,医療は文化人類学において周辺にある.
文化人類学の下位領域として出発した医療人類学は,現在では人間の生物学的側面を研究対象とする健康科学との学際領域として発達している.そこで採用されている文化人類学の理論や概念やフィールドワークをはじめとするさまざまな手法は,文化人類学の理論,概念,手法を相対化してくれる.また,人間の生物学的側面と人間の文化との関わりを明らかにすることは,文化の普遍性と多様性を追求する文化人類学に新たな知見を提供することになり,周辺が中心を活性化することになる.
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© 2010 日本社会学会
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