社会学評論
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スターシステムと文化の「高級」性の根拠
歌舞伎の社会的地位を事例として
香月 孝史
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2011 年 61 巻 4 号 p. 489-506

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抄録

スターシステムという性質は,通俗的,非芸術的な要素として認知されることが多い.今日,一般に高級文化としての社会的位置を確立している歌舞伎であるが,一方でスターシステム的性質を内包しているとしばしば表象される.本稿は,その「通俗」性と高級文化としての威信が歌舞伎においていかに共存しうるのかを明らかにする.これは,大衆文化やポピュラー文化の側から問い直しが多く行われている,文化の高級性/低級性というテーマに関し,すでに高級と認知されている文化の側から,その位置づけが何に根拠づけられているのかを問い直す試みともなる.
かつては低俗として糾弾された歌舞伎のスターシステムは,1980年代にはほとんど批判を受けなくなる.その風潮と前後して歌舞伎の高級文化としてのイメージは強固なものとなるが,そのイメージ形成を主導したのは歌舞伎とは馴染みの薄い若年層の眼差しであった.そうした層によって歌舞伎は,あらかじめ高尚な地位にある伝統芸能として認知され,その演劇的性質はあらためて価値判断を受けることがない.このとき歌舞伎の「高尚」性はその論拠が問われぬまま,きわめてイマジナリーな性質のものとしてある.今日,その内容にスターシステム的性質が依然言及されながらも,それは歌舞伎が高級文化であるという「ブランド」が所与である前提のうえでしか看取されないため,スターシステムという語が一般に帯びる低級性に直結されることはない.

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© 2011 日本社会学会
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