社会学評論
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伝統港湾都市・鞆における社会統合の編成原理と地域開発問題
年齢階梯制社会からみた「鞆港保存問題」の試論的考察
森久 聡
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2011 年 62 巻 3 号 p. 392-410

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抄録

伝統的な地域社会において, 地域社会の基層はそこで生じた地域問題の様相をどう規定するのだろうか. 福山市鞆の浦では, 鞆港の埋め立て架橋・道路建設計画をめぐる地域論争が続いている. そこで本稿ではこの地域論争を手がかりに鞆の浦の社会結合の編成原理を解明するために, 村落構造分析の年齢階梯制の視点を導入し, 鞆の浦の地域社会構造と鞆港保存問題の特徴である合意形成の長期化と世代別の意見形成の要因を分析した. まず鞆の浦における若者組等の存在を史料的に確認し, 口述記録では祭礼行事の役割分担や若衆宿のような習慣など, 年齢階梯制の名残りと思われる観察データを検討した. その結果, 厳密に論証することは難しいが, 鞆の浦に年齢階梯制が存在した可能性は高いと思われる. さらに年齢階梯制の知見を補助線に引くことで, 世代によって計画への賛否が異なること, 年長者に対する尊重の意識, 「生徒会長」「PTA会長」の役職が世代別の指導者層のステータス・シンボルであること, 話し合いを重視する住民意識などの観察データは, 年齢階梯制の社会意識の断片として解釈できる. 現代の日本では, 年齢階梯制社会とすでに認められた地域以外で年齢階梯制を論証できる分厚いデータを入手することは難しいが, 地域問題の分析で年齢階梯制の視点を用いることは, この制約を乗り越え, 年齢階梯制研究の蓄積を現代に活かすという意味で, 一定の現代的意義があると思われる.

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© 2011 日本社会学会
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