社会学評論
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会話における親アイデンティティ
子どもについての知識をめぐる行為の連鎖
戸江 哲理
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2012 年 62 巻 4 号 p. 536-553

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抄録
本稿は, ある会話的な手続きの解明を目指している. またこの作業を通じて, 親という立場がコミュニケーションにおいて実現されるプロセスを例証したい. この会話的な手続きは, 子ども (乳幼児) をめぐって親と親ではない者の発言によって遂行される, 行為の連鎖である. この行為の連鎖は, 呼応する2つの行為 (と付随的な行為) から構成されている. 連鎖第1成分を親ではない者が, 連鎖第2成分を親が遂行する. 連鎖第1成分の発言は親に対して, 子どもが現在この場で取った行動を子どもの普段の様子に位置づけるように促す. 本稿はこれを<説明促し>と呼ぶ. 説明促しは, その話者が当該子どもについてよく知らないことを発言のなかに刻印することで認識可能となる. そしてこの知識の欠如は, 説明促しが当該子どもの行動が生じた後の位置で, 描写というかたちを取って組み立てられることで刻印される. これに対して連鎖第2成分の発言を差し出す親は, 自分のほうが子どもについて詳しいという含意をもつ応答をする. この応答には, 詳しいという証拠があるタイプとないタイプがある. 子どもの普段の様子が語られる応答は前者である. また応答が後者である場合, 連鎖第1成分の話者は, 前者のような応答を求めてもっと直接的な手段で子どもの普段の様子についての情報を要求することができる. このような説明促し連鎖を通じて, 親は子どもにかんする<応答可能性=責任>を果たしているといえる.
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© 2012 日本社会学会
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