2012 年 63 巻 1 号 p. 2-18
本稿では, 京都市のスラム地域を事例に, 住民の主体形成の論理と構造を分析する. 京都市のスラム地域は被差別部落と隣接し, 同和行政を通じて空間的に分断されてきた. この分断は, 在日朝鮮人集住地域であるスラムと, 被差別部落民を中心とする同和地区との間に, 在日と部落という対立構図を作る. しかし, スラムには被差別部落出身者が流入し, 在日と部落が混住するなかから共同性が育まれ, 繰り返し住民の主体形成が行われてきた. このような実態は, スラムと同和地区の分断のなかにひそむ人や施策の横断の実態をみない旧来の差別論や社会政策論に欠落している点である. 本稿では, スラム地域における住民の主体形成における立脚点と選択する組織形態の関係性を検討し, 住民の力が発揮される主体の再編・結合条件を明らかにする. 結論的にいえば, 流動性の高いスラム地域において, 住民の立脚点となってきたのは, 部落と在日を共約化しうる住民という共通項であり, 属性と地域への差別に抗う指向性にある. これらに立脚しながら, リジッドな地縁組織である自治会・町内会, 柔軟でフラットな青年組織, 社会事業を通じて両者を媒介するキリスト者が, 複層的な関係を形成し, 行政との緊張・対立を通じて, スラム改善の実施と地域社会の自立性を維持してきたのである.