2012 年 63 巻 1 号 p. 87-105
これまでのフリーター研究では, その析出過程をめぐって構造的側面と主体的要因が切り離されて論じられ, 両者をリンクさせようとする視点が欠けてきた. そのような問題意識のもと, 本稿では5年間をかけて継続的に行ったフリーターへの聞き取り調査をもとに, 彼らの置かれた生活世界を明らかとし, その「希望」をすくいとることにより, フリーター研究における構造と主体という二元論的な対立を乗り越えたい. それは結果として, 現代日本社会の有する構造的な緊張の一端を照らし出すだろう.
事例から確認されることは, われわれの社会は, 構造として不安定な雇用を必要としつつも, 規範面においてはそれを引き受ける主体を許容しない/しえない, という事実である. 結果, そのひずみは個々人のうちに蓄積され, 主体レベルでの解消が要求されているのである. 構造と規範の軋轢が発動した不安と焦りの行きつく先が「希望」なのであり, 何がしかの「希望」を自らの生の一部に組み込むことによって, 彼らはその生全体を受け入れようとしているのである. しかし, 事例から確認されたそれぞれの「希望」は, その発生源それ自体の変革には向かってはおらず, むしろ構造的緊張の緩衝剤として機能していることが確認された.