社会学評論
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流動的集団における助け合いのメカニズム
経験的研究と数理的研究によるアプローチ
大林 真也
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2013 年 64 巻 2 号 p. 240-256

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抄録
本稿の目的は, 流動的な集団において利他的行動が成立するメカニズムを解明することである. 特に利他的行動のなかでも, 集団の全員がある1人を援助するというイベントを繰り返す個人中心の網状一般交換を扱う. 先行研究では, この利他的行動は集団および地域レベルでの, 関係の閉鎖性や長期性が必要とされていたが, 現実に流動的な社会ではこれらの条件を満たさなくても成立する例が存在する. そのため, この事例を調査して, それを数理モデル化する方法を用いてメカニズムの解明を行う. 扱う事例はコミュニティ・ユニオンにおける合同争議である. コミュニティ・ユニオンとは, 加入・脱退が比較的自由に行える流動的な個人加盟型ユニオンの総称であり, 企業別労働組合で救済されない正規雇用者や加入できない非正規雇用者の駆け込み寺として機能している. また合同争議は, 係争当事者を他の成員が支援するため, 上記の一般交換とみなせる. 合同争議についてのゲーム理論モデルによる解析の結果, 集団と地域レベルの流動性があっても利他的戦略が部分ゲーム完全ナッシュ均衡になることが示された. 協力を導くメカニズムは, 流動性のなかでも離脱だけでなく参入も同時に存在すること, 利他的戦略は一方的に利他的ではなく懲罰を備えていることなどである. これらの要因によって間接互恵的な期待が生成される. また, 協力が必要とされる期間やゲームが長期的すぎると協力を阻害することも示された.
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© 2013 日本社会学会
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