社会学評論
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自殺率に対する積極的労働市場政策の効果
OECD26カ国1980~2007年のパネルデータ分析
柴田 悠
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2014 年 65 巻 1 号 p. 116-133

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抄録
日本では, 1998年以降, 貧困や孤立といった社会的状況によって自殺に追い込まれる人々が増えた. 憲法第13条において「国民の生命の権利を最大限尊重すべき」とされている日本政府には, 社会政策によってそのような状況を改善し, 不本意な自殺を予防する責務がある. では, どのような社会政策が自殺の予防に有効なのか.
本稿では, 公的な職業訓練・就職支援・雇用助成を実施する「積極的労働市場政策 (ALMP)」に着目した. ALMPは, 「孤立した貧困者」を他者 (支援スタッフや訓練参加者) や労働市場へと繋ぎとめ, 社会経済的に包摂する機能をもつ. 自殺にもっとも追い込まれやすいのが「孤立した貧困者」であるならば, 日本においてALMPは彼らの自殺を予防できるのだろうか. あるいは逆に, 彼らを自殺へとますます追い込んでしまうのだろうか. そこで本稿は, この問いに対して実証的に答えることを目的とした.
先行研究よりも広範なデータと比較的精緻な推定モデルで分析した結果, 自殺率の増減の一部は, 失業率上昇率の増減 (貧困者の増減) と, 離婚率の増減と新規結婚率の減増 (孤立者の増減), ALMP支出の減増 (孤立した貧困者の放置/包摂) によって説明できた. またそれらの要因は, 日本での1991~2006年の自殺率変動 (前年値からの変化) のおよそ10~32%を説明した. 他方でALMP以外の社会政策は, 有意な自殺予防効果を示さなかった.
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© 2014 日本社会学会
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