社会学評論
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セキュリティ対策としての移民統合
2000年代におけるドイツの事例
昔農 英明
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2014 年 65 巻 1 号 p. 47-61

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抄録

本稿は, 治安という意味と生活保障という意味を包含した二重のセキュリティという観点から移民の統合政策の政策方針を論じたものである. 近年のドイツでは, 国家の構成員資格の基準が従来のエスニック同質的な価値規範ではなく, 民主主義, 法治国家の原則, 両性の平等, 政教分離といった理念的な原則を順守することに加えて, 自己統治の実践という社会経済的な原則を守ることになっている. こうした原則は国籍を超越した全人口を対象とするものである. 他方で液状化する近代, あるいは高度近代における経済的・存在論的な不安の高まりの中で, 公的な統治は移民とセキュリティ概念を結びつけ, 防衛的, 警察的な対策を推し進めて移民を排除する方針を掲げている. すなわち福祉国家の再編・統合能力の減退という問題のもと, 公的な統治はその正統性を確保するために, 福祉国家に負荷をかける, 自己統治能力のない移民が過激思想に染まるのを未然に防ぐために, ゼロ・トレランスの観点からこうした移民を排除する. その対策において決定的に重要な役割を果たすのが, 本稿で検討するように治安機関や警察などのセキュリティ対策の専門機関の有する知識・情報・実践である. こうした専門機関の役割により, 移民は道徳的モラルの観点から非難されるだけではなく, 治安管理の対象として取り締まられる. そのため移民統合政策は移民の統合を促進するよりも, その排除を推進する危うさを有している.

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© 2014 日本社会学会
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