社会学評論
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断片化された世界へのまなざしと弁証法
ベンヤミンの「救済」, アドルノの「批判」
片上 平二郎
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キーワード: 弁証法, 批判理論, 時間
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2015 年 66 巻 2 号 p. 313-330

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抄録

本稿の目的は, ヴァルター・ベンヤミンとテオドール・W. アドルノの思想の関係を「弁証法」に関する両者の議論から考えることにある. 両者の「弁証法」は両極にあるものを並列させるという方法論において共通する点をもつが, アドルノがベンヤミンの「弁証法」における「媒介」の欠如を強く指摘するように, 無視できない相違点をもつものでもある. 本稿では, このような「弁証法」に対する態度の違いに着目することで, 両者の「近代的時間」に対するとらえ方の差異について考察していきたい.
ベンヤミンは時間の中から「因果」論的要素を削ぎ, 瞬間的な「イメージ」の中に新たな「弁証法」の可能性を見ようとしていた. ベンヤミンは多様なものが同時に存在できるという「イメージ」の包括的性格を「救済」と結びつけようとする. それに対して, アドルノの「弁証法」観は, 従来の「弁証法」理解がもつ目的論的な構図に対して批判的態度を保ちながら, その乗り越えのために「因果」論的な意味での時間的動態性を重視している. この動態性を呼び起こすものとして, 個的なものがもつ「否定」性の契機が重要視される.
ベンヤミンは「救済」という方向に向けて, アドルノは「批判」という方向に向けて, 「弁証法」という哲学的方法を刷新することを考えた. 本稿ではこのような両者の思想の違いから生まれる思想的布置こそを「弁証法」的なものとしてとらえている.

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© 2015 日本社会学会
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