社会学評論
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映画スターへの価値転換
1950年代のスクリーンにおける観客の欲望モードの文化的変遷
北村 匡平
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2017 年 68 巻 2 号 p. 230-247

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抄録

敗戦から1950年代にかけて, 大衆娯楽として最も隆盛していた映画は, 多くの国民的スターを輩出した. この時代のスターダムにおけるスターイメージの変遷とそれを価値づける言説に, 大衆の欲望モードの変化がみられるのが1955年頃である. 本稿は, 原節子と高峰三枝子に代表される占領期的な欲望を体現する‹理想化の時代›から, 1955年以降の若尾文子を代表とする‹日常性の時代›への推移を見取り図として, 映画スターに対する大衆の欲望モードの偏差を浮上させることを目的とする.

この転換期, 大衆の集合的欲望を最も引き受けていたのは若尾文子であった. 超俗的な美貌をもった占領期のスター女優とは異なり, 若尾文子を価値づける言説は, 「庶民的」「親近感」「平凡」であり, 大衆の‹日常性›を体現するペルソナを呈示していたからこそ彼女はスターダムの頂点にのぼりつめることができた. 本稿は, 娯楽雑誌におけるスターの語られ方を分析することによって, 経済発展だけでは説明できない言説空間の変容を捉える. そこで見出されるのは, 占領期の‹理想化›された社会を象徴するスターへの反動として, 大衆文化を具現する‹日常›の体現者を称揚する言説構成である. スターを媒介にして自己を見つめ返すようなまなざしの構造が生成する1950年代中頃, 若尾文子は「平均的」であることによって大衆の‹日常性›を演じ, 若者の「リアリティ」を体現したのである.

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© 2017 日本社会学会
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