2017 年 68 巻 3 号 p. 368-385
本稿は16・17世紀の英語におけるsocietyの概念をテキストマイニングにより解明する. 当時の政治的著述群から作成したコーパスの分析により, 以下の諸点を明らかにした.
まず, 近世英語にとりsocietyは大陸の新古典主義に特有の外来語であり, そのままでは理解不能だったため, 土着語fellowshipおよびcompanyと同定された.
第2に, societyは近世を通じ, 人間の都市的な諸結合の総称として機能した.
第3に, societyの指示対象には時期により特色があった. 16世紀前半には, 特に2人の人のあいだの移ろいやすい関係がsocietyと呼ばれた. 16世紀半ば以降は持続性・組織性がある団体, 17世紀には法人団体がsocietyと呼ばれた. 17世紀後半, societyは公的支配との関係を深めてゆくのと反比例して, virtueとの関係を薄めていった. 17世紀末には, propertyの保護がpolitical societyの唯一の存在理由として浮上した.
現代の主導的な社会科学者のなかにはsocietyの術語としての価値を否定する者が少なくない. しかし上記の諸事実は, societyが巨大な構造的変化の過程をモニターするに好適な, 弾性に富む語句であったこと, そして今でもそうあり続けていることを示している.