2017 年 68 巻 3 号 p. 424-441
近代日本における「家族」の情緒的関係に関する言説は, 自然発生的な要素か, 「近代家族」的な意識や規範の発生と関連づけられてきた. 近年の研究においては, 近代家族論の見地から, 1880年代に流通する「家庭」という言葉が, 新たな家族像を示した語として着目されている.
しかし, 近代日本の家族論をみていくと, 日本の伝統的家族である「家」と関連づけられた情緒的関係に関する言説も多く見出される. そしてしばしばその関係性は, 「家庭」の情緒的関係とは異なるものと位置づけられていた. 本稿は, 近代日本における「家 (家族制度)」の情緒的関係に関する言説の形成過程とその論理構成を明らかにすることを目的に, 1890~1910年代の保守的な家族論を対象として, 分析をおこなう.
検討の結果, 「家 (家族制度)」の情緒的関係に関する言説が, 「西洋」の家族像への対抗から, それとは異なるものとして形成され, 時勢への適合を経ながらも, 国家主義的な連帯の基盤とされていく過程が示された. 結論部では, 「家 (家族制度)」の情緒的関係に関する言説を, 「近代」への反動的な想像力のもとに構築された伝統的家族像の一類型として位置づけ, 近代日本における「家」と「近代家族」の関係について, 情緒的関係の観点から, 再検討した.