2020 年 71 巻 1 号 p. 50-64
近年の計量社会学の研究方法の進展の1 つに,パネル調査データの利用がある.パネル調査は,個人の変化を正確にとらえ精緻な因果分析を可能とするが,調査にかかるコストもかなり大きい.そこで本稿は,調査会社の登録モニターを利用したパネル調査(インターネット・パネル調査)の活用について議論する.
調査会社の募集に自発的に応じたモニターは,回答者群が母集団を代表している保証が一切ない.けれども,従来型の調査では,無回答誤差やカバレッジ誤差が大きくなると考えられる若者や大学生などの変化をとらえたい場合,インターネット・パネル調査でデータを得ることも次善の策として考えられるだろう.ただし,大学生も含めた若年層のモニターは,他の年齢層のモニターと比べ,パネル調査期間中に脱落しやすいことも知られている.そのため,若者や大学生を対象にしたインターネット・パネル調査では,脱落への対処も重要である.
本稿では,大卒就職機会における学校歴仮説の検証を目的として,調査会社の大学生モニターを対象に実施したインターネット・パネル調査を紹介する.第2 波調査の継続回答率の予測からウェイト変数を作成し,データに対しウェイト補正を行ったうえで,学校歴仮説を検証した.分析の結果,ウェイト補正の有無にかかわらず,学校歴仮説が頑健であることが示された.