社会学評論
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71 巻, 1 号
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日本社会学会会長講演
特集「インターネット時代の社会調査法――ウェブ調査をはじめとするデータ収集法の革新と課題」
  • ――インターネット上での社会調査を再考する――
    杉野 勇, 小内 透
    2020 年71 巻1 号 p. 18-28
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー
  • 三輪 哲, 石田 賢示, 下瀬川 陽
    2020 年71 巻1 号 p. 29-49
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    本稿では,社会科学におけるインターネット調査ないしウェブ調査の可能性と課題について考察した.とりわけ,ウェブ調査の意義は何であるか,ウェブ調査のプレゼンスは高まっているのか,ウェブ調査の課題は何であるか,学術研究にウェブ調査データを利用する際の許容条件はいかなるものか,の諸点を焦点として検討をしてきた.その結果,実施されるウェブ調査の数自体は顕著に増加してきているが,他方でいまだ学術研究ではウェブ調査利用の成果物は必ずしも多くはないことが明らかとなった.

    理由として考えられるのは,標本の代表性への懸念である.社会学の主要な学術誌に掲載されたウェブ調査データ使用論文をみると,それらほとんどでウェブ調査を用いたことを正当化する補足的記述がみられた.

    ただし,ウェブ調査はまったく学術利用に適さないわけではない.研究や調査の目的いかんによっては,ウェブ調査の採用が最適であることも考えられる.

    ウェブ調査によるデータ収集のプロセス全体をしっかりと総調査誤差の枠組みより評価をして,研究目的に即した限定された母集団へと着目することの理論的意味と,それに対しアプローチする方法的妥当性を周到に検討することが,ウェブ調査の利用可能性をひらくだろう.

  • ――大学生を対象とした調査事例を通して――
    吉岡 洋介
    2020 年71 巻1 号 p. 50-64
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    近年の計量社会学の研究方法の進展の1 つに,パネル調査データの利用がある.パネル調査は,個人の変化を正確にとらえ精緻な因果分析を可能とするが,調査にかかるコストもかなり大きい.そこで本稿は,調査会社の登録モニターを利用したパネル調査(インターネット・パネル調査)の活用について議論する.

    調査会社の募集に自発的に応じたモニターは,回答者群が母集団を代表している保証が一切ない.けれども,従来型の調査では,無回答誤差やカバレッジ誤差が大きくなると考えられる若者や大学生などの変化をとらえたい場合,インターネット・パネル調査でデータを得ることも次善の策として考えられるだろう.ただし,大学生も含めた若年層のモニターは,他の年齢層のモニターと比べ,パネル調査期間中に脱落しやすいことも知られている.そのため,若者や大学生を対象にしたインターネット・パネル調査では,脱落への対処も重要である.

    本稿では,大卒就職機会における学校歴仮説の検証を目的として,調査会社の大学生モニターを対象に実施したインターネット・パネル調査を紹介する.第2 波調査の継続回答率の予測からウェイト変数を作成し,データに対しウェイト補正を行ったうえで,学校歴仮説を検証した.分析の結果,ウェイト補正の有無にかかわらず,学校歴仮説が頑健であることが示された.

  • ――2つの実験的ウェブ調査から――
    吉村 治正
    2020 年71 巻1 号 p. 65-83
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    本稿では,ウェブ調査の示す結果の偏りが,インターネットが使えない人が排除される過少網羅のもたらすバイアス・低い回答率のもたらすバイアス・調査対象者の自己選択によるバイアスのいずれに帰されるかを,2 つの実験的ウェブ調査を通じて検証した.第1 の実験は,同じ標本抽出台帳(選挙人名簿)から抽出された対象者を郵送回答とウェブ回答に無作為に振り分け,回答者の構成ならびに回答内容を比較したもので,網羅誤差と非回答誤差の影響を測定することを目的とした.第2 の実験は,異なる標本抽出台帳(1 つは住民基本台帳,もう1 つは調査業者のもつ登録モニター)から抽出した対象者にまったく同じ内容のウェブ調査を行い,ウェブ調査のモニター登録という自己選択のもたらす影響を測定することを目的とした.その結果,過少網羅および低回答率は1 次集計結果の偏りにはほとんど影響を与えないこと,対照的にモニター登録という自己選択のもたらす影響は無視しえない深刻なものであることが明らかとなった.

  • 瀧川 裕貴
    2020 年71 巻1 号 p. 84-101
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    現在,情報通信技術(ICT)の普及と発展は,われわれの社会そのものを再編成するとともに,これまでとは異なる方法とデータを用いるデジタル社会調査(計算社会科学)という新たな学問領域を生み出している.デジタル社会調査はこれまでの社会学の方法や理論にいかなるインパクトを与えるだろうか.本稿では,デジタル社会調査が特にインパクトを与えうる社会学の理論的・方法論的課題として次の3 つを挙げる.すなわち①社会ネットワークの構造や関係的メカニズムの解明,②因果の推論と因果メカニズムの解明,③意味世界の探求,である.これら3 つの課題についてデジタル社会調査による貢献の可能性を概説した後,実際の研究事例に即してより具体的に議論を展開する.その際,できるかぎり日本における研究の状況と研究事例も紹介するように努める.

投稿論文
  • ――A. エニョンの「愛好家」研究の射程――
    吹上 裕樹
    2020 年71 巻1 号 p. 102-118
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,近年文化社会学領域において注目されているA. エニョンの社会学の検討を通して,行為者の文化的活動の内実を把握するための方法を探求することである.エニョンは,「愛好家(amateur)」の文化的活動に密着する独自のアプローチを提示している.P. ブルデューやH. ベッカーに代表される,これまでの文化社会学で主流となっていたアプローチが,文化的活動に参与する行為者の嗜好を社会的背景に還元して説明する傾向があったのに対し,エニョンは,行為者の活動にできるだけより添い,彼/彼女らが趣味を発展させる具体的な仕方に光をあてる.本稿ではまず,ブルデュー,ベッカーら従来の文化社会学との違いを明らかにすることから出発し,エニョンの議論を理解する上で伴となる概念を整理する.つづいて,エニョンによる音楽愛好家のエスノグラフィーを参照し,彼が愛好家の活動を描き出す方法を詳細に検討する.さらに本稿では,エニョンのアプローチの応用例として,文楽(人形浄瑠璃)愛好の自己エスノグラフィーを試みることで,エニョンのアプローチの有効性と限界を明らかにする.最後に,エニョンのアプローチの意義を確認し,今後の方向性を示す.

  • ――マッサージ治療場面において患者の説明はどのように引き出されるか――
    坂井 愛理
    2020 年71 巻1 号 p. 119-137
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    生活の質向上を目的とした今日の治療ケアにおいて,専門家には,患者の普段の暮らしぶりを把握し,患者の生活にあわせたサービスを行うことが求められている.本稿は,治療中のやりとりの中で,専門家が患者の生活行動に関する情報を引き出す方法を,訪問マッサージのサービス場面の会話分析を行うことによって明らかにした.データにおいて,治療中に新しい問題に気がついたという発話(「気づき発話」)を施術者が患者に向けると,症状に対する理由説明として,患者がその問題を普段の生活に差し戻すような説明を与えることが繰り返し行われていた.これらの説明は,施術者が,自らが知覚した情報を説明不十分なものとして組み立てることによって,患者から引き出されたものである.この間接的な説明引き出しの技法は,患者の参加が不可欠な形で症状を理解することを可能にしていた.なぜならこの技法においては,施術者の専門的所見は患者の説明によって裏付けられることを前提としているため,専門的所見を述べる活動の成否が患者の説明に依存しているからである.一方この技法は,治療において語られるべき患者の側の説明があるという施術者の想定を示すものであるため,患者の私生活を問題化するという特徴をもつことも見出された.このような実践を通して,専門家と患者の協働によって,症状を患者の日常生活から理解することが達成されていた.

  • ――小資言説の分析を中心に――
    呉 江城
    2020 年71 巻1 号 p. 138-155
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    1990 年代後半,中国社会に「小資」と呼ばれる社会層が登場した.当初「小資」は中国社会に出現した新しい消費社会の主体である「都市新中間層」として脚光を浴びたが,消費社会化の進展とともにマスメディアの言説空間でその定型イメージが崩れ,脱中間層化を果たす.本稿は「小資」概念に関連する言説を分析することで,中国社会の都市新中間層に対する認識の変容において,どのような力学作用が働いたかを究明することを研究目的とする.

    使用する方法は,3 大新聞紙における小資言説を対象とした批判的言説分析である.以下に示すのが主な結論である.まず,「小資」概念の脱中間層化の要因はメディア空間における「小資的主体」の弱体化であった.また,その「小資的主体」の弱体化は,消費社会化の展開によって隆盛した大衆的消費イデオロギーが,都市新中間層のディスタンクシオン戦略を崩壊させた結果であった.本稿における分析の結果,都市新中間層に対する認識の変容と中国の消費社会化の特質との連動関係を,後発近代化国家の近代化方式の特性として位置付けられることが明らかになった.

第18 回日本社会学会奨励賞【著書の部】受賞者「自著を語る」
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