社会学評論
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特集「グローバル化と農村・過疎化」
外国人技能実習生を活用した農業経営戦略
――技能移転を通した内発的発展の可能性――
二階堂 裕子
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2021 年 71 巻 4 号 p. 559-576

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抄録

近年,外部人材と協働しつつ,農山村の住民が主導する「新しい内発的発展」とよばれる動きがみられる.また,外国人技能実習生の雇用も拡大している.しかし,外国人技能実習制度による発展途上国への技能移転はほとんど達成されていない.本稿では,ベトナム人技能実習生を事例に,技能実習生の活用を通した農業経営と技能移転の可能性について考察する.

愛媛県に拠点のある地域協同組合X は,有機農業を中心としたコミュニティ・ビジネスを活発に展開している.労働集約的な有機農業を実践するため,X にとって技能実習生は不可欠である.さらに,X はベトナムに有機農業センターを開設し,帰国した技能実習生を再雇用することにより,新たな輸入業の開始だけではなく,ベトナムにおける有機農法の普及も実現させている.

分析の結果,以下の知見が得られた.第1 に,技能実習生の受け入れにより,革新的な農業の実践や持続的な過疎地域の再生を実現させる可能性がある.第2 に,農業者が技能や知識の継承を実行した場合,その可能性は高まる.第3に,彼らが技能移転に向けて行動するための条件は,①明確な経営理念に根ざした経営戦略,②次世代育成に対する強い熱意,③技能実習生の母国における農業の現状に対する理解である.

結論として,農業者の経営能力の向上と,技能実習生の母国における情勢を視野に入れた外国人技能実習制度への改正が火急の課題であることを強調する.

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© 2021 日本社会学会
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