2021 年 71 巻 4 号 p. 541-558
本稿の目的は,グローバル化を背景とする新たな生活課題としての未婚化への対応が,農村の地域社会に与える影響の一端を,生活構造論の視点から明らかにすることである.そのために,九州地方の過疎農山村A 町が実施している結婚促進事業参加者への聞き取り調査の結果から,(1)未婚男性たちのどのような生活構造が未婚化と関連しているのか,(2)結婚促進事業への参加が未婚男性の生活構造にどのような変化をもたらすのか,(3)そうした未婚男性たちの生活構造の変化が,どのような地域社会の変容を引き起こしているのか,の3 点について検討した.
その結果,(1)について,未婚男性の社会的ネットワークの閉鎖性と,老親との同居や家の後継者を期待する家族観の2 つが結婚を阻む要因となっており,同時に結婚できないことを悩まねばならない原因ともなっていること.(2)について,結婚促進事業への参加が社会的ネットワークを拡張するとともに,結婚観・家族観へも影響をおよぼしていること.(3)について,こうした変化を通じて,結婚促進事業が未婚化という生活課題を解決すための,各集落を結ぶハブ(hub)となることで,都市との関係を構築する際の窓口として機能し,地域社会に成員に対して新たな生活課題に対処できる資源を提供していること.以上の3 点を明らかにした.