社会学評論
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近現代日本における〈摂食障害〉の生成と定着,その後
――Self-Starvation の意味理解の変遷――
河野 静香
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2021 年 71 巻 4 号 p. 654-670

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抄録

Self-Starvation(以下SS と略記)は今日の日本では摂食障害の名で知られているが,こうした理解が広まったのは比較的最近のことである.だがそれ以前の日本でSS が知られていなかったかといえば,そうではない.本稿は摂食障害として知られる以前の日本におけるSS の意味理解,〈摂食障害〉の生成,その後の展開を記述する.

分析対象は1872~2018 年の新聞記事のうち,見出しあるいは本文にSS と関連する語句を含む記事である.テキストマイニングと内容分析による記事の計量的な分析から,日本におけるSS の意味理解の変遷を次のように要約できる.

19 世紀後半,SS は宗教的目的による断食,政治的目的によるハンガーストライキ,厭世による断食自殺など多様な意味で理解された.20 世紀半ば,SSは医療者から様々な病名で,精神的な病気として言及された.1980 年代以降,SS は医療者,教育関係者,フェミニストカウンセラーによって心の問題として理解され,拒食症として言及され始めた.このときSS は心の問題であると同時に社会の問題としても捉えられ,医療をはじめ公的,非公的諸機関の連携が求められた.2000 年代以降は福祉を中心に,SS は摂食障害の名で,嗜癖(addiction)として理解され始めている.現代日本でSS は心の問題であると同時に習慣化した行動パターンの問題と解され始め,新たな支援のあり方が模索されている.

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© 2021 日本社会学会
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