社会学評論
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境界を生きることの困難さについて
――ある結婚差別の事例を通して――
笹川 俊春
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2021 年 71 巻 4 号 p. 635-653

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抄録

1960 年代以降の高度経済成長という日本社会の地殻変動と同和対策事業の実施は被差別部落を激変させた.被差別部落からの転出や一般地区からの転入が加速し,「誰が部落出身者なのか」わからないという状況が一般化した.

そうした極めて現代的な状況が加速する中,1991 年10 月,広島市内の高校に通う部落出身の女子高校生が部落差別を受けたことによって自ら命を絶った.一般地区で生まれ育った彼女がなぜ部落差別に遭い,どうして死を選んだのか.関係する行政によって『広島市中学校教師結婚差別事件に関する総括書』がまとめられ,彼女の死を部落差別の結果と断定したが,彼女が直面した困難と部 落差別との関係については言及されなかった.

彼女の死からおよそ30 年が経過しようとしている今,彼女のような「境界を生きる人々」は増加し続けている.だからこそ,差別によって命を奪われた彼女が直面していた「境界を生きることの困難さ」とは何かを解明する試みには大きな意味があると考える.本稿では,この差別事件に関わる公の文書として唯一公開された『総括書』をもとに,彼女が部落差別を受けたことを再確認し,彼女のように一般地区で生まれ育った部落出身者が,境界を生きる存在としてどのようなアイデンティティを形成し,どのような困難に直面しているのかを明らかにする.

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