社会学評論
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公募特集「『戦争と社会』をめぐる新潮流」
高度経済成長期日本の軍事化と地域社会
―石川県小松市のジェット機基地と防衛博覧会―
松田 ヒロ子
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2021 年 72 巻 3 号 p. 258-275

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抄録

本稿は,高度経済成長期の日本の地域社会の軍事化について,石川県小松市に1961年に設置された自衛隊と民間航空が共用する小松飛行場/基地と,基地開設を記念して開催された「伸びゆく日本産業と防衛大博覧会」(小松防衛博)を事例に検討した.小松市には戦時中に海軍飛行場が建設されたが,当時の市長や市議会議長らは,飛行場建設を契機に小松市を軍都として発展させることを構想していた.軍都計画は終戦により頓挫したが,軍事施設と地域発展を結びつける思考は戦後にも継承された.終戦後,小松飛行場滑走路を航空自衛隊のジェット機基地化することが計画された.だが市長や市議会は誘致に積極的だった一方で,住民からは反対の意見が上がり,市の意見は二分された.しかしながら,基地開設を記念して1962年に開催された小松防衛博は成功を収めた.成功の伴となったのは,小松防衛博の〈地域博覧会〉と〈防衛博覧会〉としての二面性だった.小松防衛博は,「裏日本」のアイデンティティから脱却し,先進性の象徴であるジェット機を象徴として新たなアイデンティティを提示した.同時に,自衛隊の装備品や兵器を,科学技術製品として電化製品や農業機械製品と並列し,軍事を近代的な消費生活のイメージの中で再定義した.高度経済成長期の消費主義と軍事を接合させることにより軍事を地域社会の日常生活の中に埋め込んだのである.

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