社会学評論
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未規定な性のカテゴリーによる自己定位
―Xジェンダーをめぐる語りから―
武内 今日子
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2022 年 72 巻 4 号 p. 504-521

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抄録

本稿は,性別違和を抱く人々がXジェンダーという性自認のカテゴリーを用いて,男女の二値に当てはまらない何者かとして自己を定位する仕方を考察した.先行研究では,性同一性障害やトランスジェンダーに付随する規範が論じられた一方,近年ではこれらのカテゴリーで表せない自己像も描かれてきた.ただし,日本において男女の二値に当てはまらない性自認のカテゴリーが自己を表すために用いられる仕方は十分に論じられていない.

そこで本稿は,Xジェンダーを名乗る10名に半構造化インタビュー調査を実施し,Xジェンダーが用いられる仕方を分析した.その結果,Xジェンダーを用いることで,経験の再解釈,認識上の切断,暫定的な居場所,政治的主張の根拠という諸実践が可能になることが見出された.すなわちXジェンダーは,先行するカテゴリーのもつ否定的な意味づけを回避するために,もしくは不安定な状況におかれる自己を性自認のカテゴリーに暫定的に位置づけるために用いられる一方で,当事者間での摩擦も生じさせていた.その同一カテゴリーのもとでXジェンダーの意味づけを明確化しようとする政治的主張がなされるからである.これらの結果は,先行するカテゴリーから自己を差異化する過程を論じてきた先行研究に対して,社会的定義や意味づけの定まらないカテゴリーとしてのXジェンダーが可能にする,協働や矛盾をはらむ複数の実践とその帰結を示す点で意義をもつ.

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© 2022 日本社会学会
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