2022 年 72 巻 4 号 p. 487-503
教育と社会階層における実証研究では,多くの人が進路選択に最も強く影響すると考えてきた成績を統制しても,階層の影響が残ることが指摘されてきた.つまり教育機会の不平等研究で,成績を考慮することは欠かせない.問題は,社会調査で真の成績を把握することが困難なことである.日本の社会調査では,中学3年時の学年内の相対的位置から,成績を5段階のリッカート尺度で回答させてきた.日本では大半の中学生が高校受験を経験するが,その際自らの成績を意識せざるをえない.だから中学3年時の自己評価成績は変動しにくく,進学先の高校の偏差値ランクに対応していると予想した.本稿で使用するパネル調査では,異時点で同一人物に中3時の自己評価成績,および高校名を尋ねている.高校名から,高校の偏差値ランクを照合できる.したがって自己評価成績の異時点間の比較から回答の安定性を,また自己評価成績と偏差値ランクを比較し,両者の対応関係を検討できる.その結果,中3時の自己評価成績は回答の一貫性が高いことを確認した.また中3 時自己評価成績と高校の偏差値ランクの関連も強く,回答のズレに特筆すべき傾向は見出せなかった.自己評価成績と高校偏差値を利用し,大学進学の有無を推定したロジット回帰分析により,自己評価成績が頑健で,高校偏差値の代理指標とみなせることを確認した.進学先の高校偏差値は,自己の過去の成績評価を大きく規定しているといえる.