社会学評論
Online ISSN : 1884-2755
Print ISSN : 0021-5414
ISSN-L : 0021-5414
投稿論文
抹消の現象学的社会学
―類型化されないことをともなう周縁化について―
松浦 優
著者情報
ジャーナル フリー

2023 年 74 巻 1 号 p. 158-174

詳細
抄録

差別や排除に関する従来の議論では,周縁化される対象がマジョリティから差異化されていると自明視されてきた.これに対して,排除の対象としてあからさまに名指されるのとは異なる,差異化をともなわない周縁化が存在する.この周縁化を,本稿では「抹消」と概念化する.そのうえで,現象学的社会学の差別研究とシュッツのテクストを読み解くことによって,抹消現象を理論的に考察する.

本稿と似た問題関心の理論としては,バトラーの「予めの排除」論が挙げられる.しかし,これはあくまで嫌悪の対象として社会的に差異化されたセクシュアリティに関する理論であるため,本稿でいう抹消を捉えきれていない.これに対して現象学的社会学は,意味や類型の生成だけでなく非-生成を捉えることができ,それゆえ差異化されないという現象を理論化できる.

まず「類型化されていないこと」に関するシュッツの記述をもとに,類型化されていないものが類型化されないままとなる現象を「非類型化」と概念化したうえで,抹消を「非類型化をともなう周縁化」と定義する.次に,レリヴァンス体系の相応性の理念化と,主題的レリヴァンスの消滅に関するシュッツの記述から,抹消を維持するレリヴァンスの問題について論じる.そして抹消において「主観的意味連関の否定」が生じることと,そのさいの周縁化が間接的なものであるということを指摘する.最後に,抹消が問い直される局面について検討する.

著者関連情報
© 2023 日本社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top