社会学評論
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地方若年層Uターン者の移動理由と構造的脈絡のすき間
―広島県大崎上島の事例から―
竹内 陽介
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キーワード: Uターン, 人口減少地域, 若者
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2023 年 74 巻 1 号 p. 140-157

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抄録

本稿は人口減少が進展する農山漁村地域に回帰する若年層Uターン者の語りを分析の主軸に据え,移動を実現させるメゾ・レベルの要因に着目する観点から,その現代的特徴を考察した.その結果,縮小しつつ維持されてきた社会経済的構造・生活構造の <すき間> と,課題対応を求める地方社会の現状が,若者の多様な価値志向と結びつき,Uターンを生み出していることが明らかになった.

事例対象地域である広島県大崎上島町は近年,多様な転入層を受け入れつつも,進学や就職を機に若年層の多くが他出する地域であり,人口減少に伴う各種課題を抱えている.一方で若年層Uターン者たちはそうした地元をむしろポジティブに評価している.同年齢集団の大半が他出している状況だが,家族や地縁共同体との間に築かれた土地に根差した生活の記憶がUターンの理由として語られる.また家族・親族が地元社会のインフォーマルな労働市場と結びついて仕事を紹介し,子育て支援をするなど社会的資源として機能する結果,不安定なライフコースを生きる現代の若い他出子たちにおいて,地元は相対的に良質な生活環境となっていた.他方で持続可能性の観点で先行き不透明な現状は,一見私的な家業相続に地域課題に対応する新たな事業展開の必要性をもたらしており,山積する地域課題の存在は,問題を自覚し,その解決をやりがいに結びつける若者たちを引き込む要因となっていた.

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© 2023 日本社会学会
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