社会学評論
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「見守りの支援」の価値再考
―相互行為における野宿生活の正当化に着目して―
稲葉 渉太
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2024 年 75 巻 1 号 p. 75-92

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抄録

本稿では2つのことに取り組んだ.まず,元野宿者が野宿生活の理由を語る場面において,野宿生活の正当化が達成されるやり方を分析した.そして,その知見に基づいて,「見守りの支援」の実践について先行研究とは異なる意義を考察した.

現代日本社会の常識から出発すると野宿生活は逸脱的なふるまいにみえる.ゆえに,野宿生活を営む者にはその理由が問われる.野宿者研究においては,研究者が野宿者に代わって理由の説明に取り組み,野宿生活の正当化が行われてきた.ただし,福祉制度が充実し「洗練」するなかで,野宿生活の正当化に足る理由を組み立てることはますます困難になっている.本稿では,こうしたものの前提にある,野宿者に野宿生活の理由を問うことを適切たらしめる構造を,分析から明らかにした.

また,そもそも「見守りの支援」は路上から野宿者の居場所がなくなることを危惧してその必要性が指摘されており,その支援の価値を再評価する動きもある.ただし,先行研究の知見では野宿者が直面する野宿生活の正当化という課題と支援との関わりが不明瞭であった.対して本稿は,野宿生活を正当化する場面の記述を通して,正当化の活動が野宿者に課している負担を明らかにした.そしてその知見に基づいて,先行研究で明らかにされてきた「見守りの支援」の実践が,野宿生活の理由を問うことを適切たらしめる,野宿者に負担を課す関係性を,無効化する実践でもありうると考察した.

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