近代社会における家族活動は、市場における労働とは異なった性格を持っている。Illich は支払われない労働という性格、Boulding は贈与という性格に着目した。家族活動の無償性は、打算的動機づけの排除、情緒的・規範的動機づけの付与によって維持されている。家族活動と打算的動機づけが貫徹する市場経済との分業体制が、資本主義社会の生産―再生産メカニズムを支えている。最近の家族をめぐる状況は、この分業体制を根本的に揺がしつつある。情緒的動機づけの性格が変化し、規範的動機づけが緩み、打算的動機づけが家族活動に侵入する。その結果、家族活動が十分に充足されないケース、家族活動が市場活動によって代替されるケースが増大する。現代資本主義国家は、家族の動機づけの危機を認知し、市場と家族の分業体制を維持するため家族活動に介入しようとするが、家族危機の進行を止めることはできない。アメリカの家族政策の変化を例にとって、この過程を検討する。