社会学評論
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農業イノベーションの普及過程と普及効果の一考察
-東北タイにおける農村開発の事例から-
野辺 政雄
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1986 年 37 巻 1 号 p. 45-63,129

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抄録
イノベーション普及理論の分析枠組に基づき、東北タイの一村落における農村開発の事例を分析し、次の知見を析出した。第一に、富農は、講習会に出席することなどによって、貧農よりも積極的に、農業イノベーションに関する情報を探求し、化学肥料、新種の稲、農薬といった可分性の大きな農業イノベーションを採用している。第二に、近親者のネットワークは、情報と影響力の経路としてのみならず、融資や農業イノベーションの貸与・譲渡の経路として、有効に機能するので、貧農は遅れを取りつつも、それらの農業イノベーションを採用している。第三に、農民の収入は低く、農産物市場は不安定なので、富農は、その技術変革によって増加した収益を、むしろ、子供の教育に投資し、子供を農業以外の職業につかせようとしている。そして、彼らは、農地面積拡大、農業機械化、灌漑設置に向かわない。この傾向が続けば、社会階層間格差は拡大しないであろう。第四に、郡役人や普及員が、日当を支給して村民を動員し、農村開発の基盤整備を行なうと、伝統的な共同作業制度を破壊してしまう。すると、農業イノベーションが普及する際に、異なる親族間のネットワークが有効に機能しなくなるであろう。
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