抄録
本研究の対象は都市に居住する高齢者の社会的ネットワークである。それは、都市構造、高齢者の生活意識、生活の質、特性などの観点からさまざまな相違を示す。通説として、「老いと孤独」というテーマが設定されがちであるけれども、正確な実態を把握しない限り、その種の議論はあまり意味がない。
したがって、本研究では、高齢化する地方都市の代表として小樽市と久留米市とを選定し、詳細な高齢者ネットワークを調査し、計量的な分析を実施した。主要な知見としては、高齢者が血縁、住縁、関心縁のそれぞれでかなりな日常的ネットワークを保有していること、とりわけ血縁ネットワークは豊かであり、他の二軸とは独立的に機能していること、住縁ネットワークからコミュニティの展望が期待されること、また住縁指標と「生きがい」指標との間には強い関連が存在すること、その結果「老いと孤独」の命題は一般的には成立しないこと、住縁のなかの近隣関係の質と量とは高齢者の新しい生活基地として今後有効に作用すること、などが得られた。
将来的に、政策的視点から「高齢化」にアプローチする場合でも、年金、保険、医療などの制度部門だけではなく、そして家族と福祉の研究分野からだけではなく、もっと地域の側からの研究が必要になると思われるが、本研究で獲得された諸データはそれにも有益であろう。