抄録
一九七〇年代に注目を浴びた「社会学の社会学」は、社会的世界に関する知の獲得における社会学の役割について深刻な懐疑をもたらすとともに、「イデオロギー」や「知識人」の概念の根本的な見直しを促した。本稿は、「社会学の社会学」を代表した論者であるA・W・グールドナーの知識社会学と知識人論を手がかりとして、ハーバーマスとフーコーに代表されるような「イデオロギー」と「知識人」をめぐる議論の今日的状況に接近してみたい。グールドナーによる社会理論のリフレクシヴィティー (自己回帰性) の研究は、マンハイム流の「存在被拘束性」の理論の徹底化という経路を通って、社会理論におけるイデオロギー性の遍在と知識人の階級性を主題化した。それは、「イデオロギー」概念を、コミュニケーション合理性を鍵概念として再構築する試み (ハーバーマス) と、「真理」概念の実定化を通じて脱構築する試み (フーコー) という、二つの対照的な方向の分水嶺に位置する立場をよく示している。グールドナーの「リフレクシヴ・プロジェクト」を「補助線」として導入することで、「イデオロギー」と「知識人」をめぐる現段階での様々な議論の問題点が浮き彫りになると思われる。