戦後漁業政策は、低金利の融資により、沿岸漁業での漁船・漁業機器を発達させてきた。これらは、生産性や操業時の安全性を向上させた半面、資源の乱獲を招く一因となった。最近、資源管理型漁業の必要性が叫ばれているのはこのような文脈においてである。
しかしながら、沿岸漁村においては、資源管理は、本質的には漁家自身によって主体的に為されなければならない。そのばあいの、資源管理は、現実には、漁村・漁家による漁場管理となって現れる。
そこで、本稿ではまず、三重県志摩地方の一沿岸漁村を事例に、そこでの地先漁場の伝統的管理の実態を明らかにする。また、それらの管理と実際の操業との間に、技術革新により緊張が生じた過程を明らかにする、そして、最終的に、両者の分析を通して、伝統的漁場管理の背後にあって、操業上の権利にかかわる価値観や観念を抽出する。この伝統的な管理は、操業時における漁家相互間の慣習的な用益上の配慮として現れ、漁家間の競合を抑制してきた。その配慮とは、具体的には、ある漁家が、漁場内の特定のポイントや場所で操業することで、そこに用益上の “優先権” や “独占権” が生じ、他の漁家は、その権利を認めることで成立する。本稿では、この伝統的管理における、操業 (労働投下) と権利の関係を、これまで漁村研究で用いられてきた総有概念とは異なる、また別の所有概念の発想と関わらせて分析する。