社会学評論
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社会的世界としての精神分析世界
そのパースペクティブをめぐる考察
森 真一
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1994 年 45 巻 2 号 p. 172-187

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抄録

精神分析は, 神経症の症状をエディプス・コンプレクスの歪んだ表現ととらえ, 同じコンプレクスの派生物とみなされる連想や夢の報告, 感情的行為の分析を通して, 患者の個別的なエディプス・コンプレクスの発見を目指す。このような神経症患者の症状・言説・行為に関する見方は一つのパースペクティブを形成し, このパースペクティブを共有する人々の集まり, すなわち “社会的世界としての精神分析世界” の中核をなしている。
精神分析的パースペクティブはフロイトの科学観のうえに成立してきた。だが, その成立過程で彼のある理論, 隠蔽記憶論が隠蔽・排除された。その理論の含意が彼の科学観とは矛盾し, 精神分析的パースペクティブの存立を脅かすものであったからだ。この隠蔽記憶論の含意を隠蔽・排除するために, 精神分析は患者の精神内部に症状・言説・行為を支配する原因, すなわちエディプス・コンプレクスを発明した。この “発明” によって, 患者の内面に潜む “客観的真理” を “発見” する自然科学の地位を確保しようとしたのだ。だが, 隠蔽記憶論の隠蔽・排除のために土台が不安定な精神分析世界は, 分析医だけではなく患者にも精神分析的パースペクティブを共有させることによって, 自らの拠って立つ “真理” の正しさを強迫的に確認しなければならない。本稿は, 以上のような精神分析世界の特徴を, そのパースペクティブにテーマを限定して論述することを目的とする。

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