社会学評論
Online ISSN : 1884-2755
Print ISSN : 0021-5414
ISSN-L : 0021-5414
宗教実践の構成と社会変容
タイ東北部農村社会における宗教伝統を事例に
櫻井 義秀
著者情報
ジャーナル フリー

1995 年 46 巻 3 号 p. 327-347

詳細
抄録
本稿は, 東北タイ村落社会の宗教伝統を慣習的宗教実践と措定し, それを支える社会的条件の変化を指摘することで, 社会変動期における宗教変容を明らかにしたい。慣習的宗教実践を理念型に据えた戦略的利点と分析の手順は以下の通りである。第一に, 慣習的宗教実践を社会関係が内在化された行為として捉えることで, そのシンボリズムの分析は埋め込まれた社会構造の分析と連関する。例えば, タンバイアは東北タイの農村宗教を分析した際, 互酬的な表象の布置と現実の村落や隣接世代間の互酬的社会関係に機能的な連関を見た。しかし, 本論ではあくまでも文化と社会構造の相対的自律性を前提にそれぞれの構造を分析する。文化が規範性を帯びるのは, 現実の生活過程の諸事実に対して妥当性構造を維持する限りにおいてである。その限定された社会的コンテキストを, 具体的な生活構造, 民俗的 (エミック) 知識を通して明らかにすることで, 機能主義的宗教変動論を乗り越えたいと思う。第二に, 慣習的宗教実践が変容する条件を, 1) 儀礼行為自体の変化, 2) 宗教実践が含み込む意味のレリヴァンスが社会的コンテキストと齟齬をきたす, 3) 宗教実践を身体化する共同体の解体と仮定し, 宗教実践の持続・変容の要因を特定化したい。使用するデータは, 東北タイ, ウドンタニー県西部の一農業村落において, 1992, 3年, 筆者が実施した 103 戸の全数面接調査と事例研究から得ている。
著者関連情報
© 日本社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top