抄録
「文化的生産の場」の概念を中心にP.ブルデューによって構築されてきた「作品の科学」は, 文学・芸術の社会学に対して, 反映理論にかわる新たな視角を開きつつある。文化的生産をとりまく社会空間が固有の規則と独自の論理を備えた自律的場として組織化されていることに着目して, ブルデューは, 文化的作品の構成過程を, その場の中での正統性の承認をかけた闘争の帰結としてとらえていく。それは, 文化領域におけるモデルニテをそれ自体において相対化しようとする試みであり, ルカーチやゴールドマンのアプローチによっては乗り越えることのできなかった限界を克服する上で不可欠の視点を提示している。しかし, ブルデューの方法論の中には, なおいくつかの問題点や不備を指摘することができる。私たちの課題は, それらについて批判的な検討を加えながら, 彼の提示した方法論をより総合的な枠組みの中に組み入れていくことにあろう。