抄録
今日の階級・階層研究で「階級の死」が最大の理論的争点になっている。これは冷戦の終結を契機にしている。そもそものはじめから, 近代の「階級」は歴史的政治的な「主体」として想念されてきた。しかし, 階級がもしも「市場において出会う異なる種類の経済主体」として概念化されるならば, 彼らの経済的利害は本来的には対立的ではなく, 互酬的である。なぜなら, 市場において異なる人々は利益をめざしてのみ取引を行うからである。従来, 「階級対立」とみなされてきたものは, まず身分制に根ざしている。前近代の身分制社会は経済が政治に従属していた。近代社会は (漸進的に) 身分制を排除したが, 貧困が消滅したわけではない。貧困の継続こそが, 「階級闘争」とみえた諸運動の基盤であった。1970年代の終わりまでに先進産業社会は貧困を基本的に撲滅させ, したがって「階級」の存立基盤は基本的に失われた。しかし, 階層が消滅したわけではない。ただし, 基礎財の全般的普及のもとでそれは多元化し個人化している。それが, 後期近代社会の階層状況である。