抄録
中国社会のダイナミズム解明にはM.ウェーバーの「人間関係優先主義」 (Personalisumus) が鍵を握る.本稿では, 中国農村にかんする先行研究から, 人間関係優先主義が典型的に現れる場と機能を農村生活の実相より明らかにし, 20世紀を通じて, 人間関係優先主義が民衆生活を支えてきたことを強調する.
具体的に以下の内容が議論された.旧中国で人間関係優先主義が典型的に現れる場は〈農民-仲介者-鎮の勢力〉だった.農民と鎮の商人, 不在地主を仲介する「后台人」 (backstage boss) は宗族や民間宗教の指導者である, 人民公社時代では〈農民一生産隊〉の場だった.人間関係優先主義は消滅せず, 后台人は生産隊幹部として制度に組み込まれた.改革・開放後では, 行政村が実力者の基盤である.民衆は実力者の条件として「能耐」な (我慢強い) 資質をあげる.能耐な人物は, 村幹部に就き職責以上の期待を民衆から負わされたり, あるいはそもそも村幹部に就かなかったりする.実力者と制度的地位とのあいだに存在する恣意性が, 后台人の台頭する空間を提供する.
民衆は複数の后台人と情誼的関係を結び, 后台人を媒介にシステム社会を換骨奪胎して資源を獲得, 生活を維持する.人間のもつ豊饒性と多様性が, 社会のなかで確かな存在感を示している.中国の現代化をひとつの文明史として読み解くためにも, 人間関係優先主義の形態と論理の一層の解明が必要である.