社会学評論
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フィールド調査法の窮状を超えて
松田 素二
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2003 年 53 巻 4 号 p. 499-515

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抄録

社会調査のなかでも近年, エスノグラフィーやライフヒストリーなどの手法を用いた研究の進展はめざましいものがある.こうした調査の興隆とは裏腹に, 方法論的にみると, フィールド調査に代表される質的調査は, 一貫して周縁的位置に置かれてきた.さらに1980年代半ばに起こった民族誌への根源的懐疑の思想運動は, フィールドワークとそれにもとづくエスノグラフィーの可能性を基本的に否定する方向に作用した.フィールド調査の未来はあるのだろうか.
この問いかけを考えるとき, 1970年代に行われた社会調査をめぐる似田貝-中野「論争」は, 今日的意義を失っていない.調査する者とされる者とのあいだの「共同行為」として調査を再創造しようという似田貝と, そこに調和的で啓蒙的な思潮を読みとり, する者とされる者とのあいだの異質性をそのままにした関係性を強調する中野のあいだの論争は, 時代性を超えて, 2つの重要な問題を提起している.ひとつは, セルフをどのように捉えるかという問題であり, もうひとつは, 立場の異なるセルフ間の理解と交流はいかにして可能かという問題である.前者は, 共同性 (連帯性) をめぐる存在論の議論に連なり, 後者は, ロゴスと感性による対象把握に関わる認識論の議論につながっていく.
本論では, フィールド調査における, 実感にもとづく認識と理解の可能性を検討する.

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